天狗と私の千年の

writer加部鈴子
illustrator

天狗と私の千年の恋について

 「天狗と私の千年の恋(天恋)」は、東吾妻町を舞台にした町おこしファンタジー小説です。

 群馬県吾妻郡の東部に位置する東吾妻町は、日本一人気のある温泉地草津町に行く途中に通る町で、少し前だと大河ドラマ「真田丸」のオープニングに使われた岩櫃山のある町です。
 町をもっと知ってもらうために、数年前東吾妻町が町の有志と作ったキャッチコピーが「マイロックタウン東吾妻」でした。
 岩櫃山を中心に、数々の奇岩が点在する鉱物としてのロック。
 その昔この地を闊歩していた吾妻忍者のように、正体を隠しつつ個性的な生き方をしている生き様としてのロック。
 誰もが主人公となれる町をスローガンに始まったのがマイロックタウンプロジェクトでした。

 「町内の岩と、ロックな偉人たちを、天狗伝説でつなぐ物語が書けないか」マイロックタウンの企画が始まった頃、プロジェクトに関わるある方との雑談の中で言われた一言が、「天恋」を書くきっかけでした。
 天狗伝説と聞いて最初に思いついたのが、幼い頃祖母から聞いた「大場(だいば)の七不思議伝説」です。都から来た高貴な姫君とその若君・三郎の縁の七つの実際に存在する不思議な場所。三郎は最後に天狗になってこの町を守っていると言い伝えられています。
 そして、残念なことにその大場という場所は、お隣長野原町に出来た八ッ場ダムのプラントヤードとして大きく姿を変えていたのです。
 姿は変わっても、七不思議伝説の地だということは忘れ去られたくない。
 その思いがこの小説を書く原動力となりました。

 その後出版の予定もなく、しばらくの間はお蔵入りの状態でした。パソコンの中で眠っている物語はたくさんあります。書き上げると満足する性質なので、たくさんある中のひとつとして眠らせるつもりでした。
 眠っていた小説を世に出そうと思ったきっかけは、コロナです。
 新型コロナウイルスの流行で、様々なイベントが中止になり、町おこしの活動もしづらい状況の中、逆にこういった時代なら小説で町おこしもありなのではないかと思い、町役場の担当課長にお声がけをしたのです。
 地元作家の思いつきで始まった企画ですが快くご協力いただき、「マイロックタウン東吾妻」のポータルサイトにWeb小説として、令和4年6月から9月までの4ヶ月間連載していただきました。
 町在住漫画家祐さんのステキなイラストをはじめ、岩を中心にした町内の写真、おいしそうな料理の写真など、たくさんの方のご協力もあり、10月31日をもって掲載を無事終了することができました。

 「天恋」は、東吾妻町の現在と過去、史実と伝説、空想と現実が混じり合う町おこしファンタジー小説です。舞台のほとんどは実際の場所で、東吾妻町のおいしい食べ物もたくさん登場します。小説の中で主人公が作る料理は、広報ひがしあがつまにレシピが掲載され、実際に作って食べることもできます。
 また、「天恋」はひと夏の恋の物語でもあります。
 物語の世界を実際に体験し味わうことが醍醐味のひとつと考えていましたので、本格的な秋を迎えるのと同時に終了するつもりでした。

 ところが、
「『天恋』をもっとたくさんの人に読んで欲しい」
「『天恋』のキャラクターを観光に使いたい」
 そう言ったありがたい声をいただき、この度「天恋」特別サイトを立ちあげることになりました。
 今回のサイトは、どこまで読んだか一目でわかる機能付き!
 途中まで読んだけれど、しばらく休んでいたらどこまで読んだかわからなくなるという心配もありません。

 たったひとりの思いつきで始まった「天恋」ですが、たくさんの方の愛情に支えられ思った以上に大きくなりました。
 この小説を読んで、
 東吾妻町を知らなかった人に、東吾妻町の存在を知ってもらい、
 東吾妻町を知っていたけれど興味のなかった方に、ほんの少し興味を持ってもらい、
 東吾妻町に住んでいる人に、より深い町の歴史を知ってもらい、
 東吾妻町のことを好きになってもらえたら、これ以上の幸せはありません。

児童文学作家 加部鈴子