天狗と私の千年の

writer加部鈴子
illustrator

大場の七不思議伝説

吾妻の地に伝わる七不思議伝説です。

 昔、京で評判のやんごとなき姫君が道ならぬ恋に落ち、身籠った子を守るために、乳母とともに東国へ下る。大柏木の大場に住み、やがて若君を産んだ。
 この母子縁の七つの場所にまつわる不思議な言い伝えを、大場の七不思議という。

・かじかが京(かじかがきょう)……姫が若君を産んだ際、産湯として使った水場。ここには白い魚が住んでいて、この魚をとると大雨になるという。

・蒔田の松(まくたのまつ)……成長した若君は剣の腕前が並ぶ者のないまでになり、松の古木を相手に修行を重ねた。この松に蝉が多くとまると、豊作になると伝わる。

・上臈が平(じょうろうがだいら)……時が過ぎ、年老いた母が七昼夜法華経を唱えて眠るように亡くなった場所。女性が身を清めて訪れれば、安産になるという。

・乳母が窪(うばがくぼ)……後を追うように亡くなった乳母を葬った場所。ここに乳母草が生えていて、取って来て庭に植えれば母乳の出がよくなると伝わる。

・乙鳥岩(つばめいわ)……一人になった若君が里を離れて暮らした岩窟。不思議なことに、燕に似た大鳥が衣食を運んでいたという。高位の人が訪れると、燕の形の大鳥が現れる。源頼朝の浅間狩りの際にも現れたと伝わっている。

・独呑の井(ひとりのみのい)……水がないため不自由していた若君が神に祈ると、岩の窪みからいつも一人分の水が湧き出るようになったという。

・めくら神(めくらがみ)……夜な夜な旅人を苦しめた妖怪を、若君が退治して封印した場所。眼病の人が深夜お参りすると、琵琶の音が聞こえ平癒すると伝わる。

 ある夜、雷鳴とともに大男の山伏が現れる。若君が戦うも打ち負かされる。この山伏こそが天狗であり、若君を天狗道へと導き、不老不死の身体を得てこの村を守っていると伝わっている。

 「大場七景由来七不思議」「大場三郎豊秋天狗となりたる話」として口伝えに残された伝説である。