続編「天明の選択」
第7話 濁流
「昨夜は、よく眠れなかったわねえ」
ふたりでいつもよりも遅く起きた朝、志乃は小川で顔を洗いながら言った。
「せやなあ。あんだけ揺れればなあ」
「爺さま、大丈夫だったかな」
「ちょいと様子を見て来るわ」
心配そうに見上げた志乃に、三郎は言った。
「お願いね」
志乃がそう言いながら、大きな伸びをする。
断続的に揺れが一晩中続いた。眠れそうになかったので、昨夜は遅くまで志乃の話を聞いた。月明りに志乃の横顔が浮かぶ。亡くなった夫の話を、志乃はうれしそうに語った。
こんな山奥で、たった三年間の幸せな生活。同じくらい続いた夫の看病の日々を語る時でさえも、志乃は懐かしそうだった。
太一の家で女中の真似事をしながら過ごした子供時代がどれだけつらい日々だったかが想像できる。
けれど、太一の母親だっていつまでも元気でいるわけではない。太一の志乃を想う気持ちが強ければ、決して悪い相手ではないと思うのだが。
まだまだ死んだ旦那のことだけを想って過ごすには、志乃の残りの人生は長すぎる。
『志乃のことを守ってやってくれねえか』
そう言って頭を下げた源三の日に焼けた額が思い出される。
『返事はしなくていい。志乃と三郎がそれぞれ選んだ道を行けばいい』
「……そんなこと言われてもなあ」
炭焼き小屋に続く山道を歩きながら、三郎はひとりぼやいた。
「爺さん」
声をかけても返事はなかった。
小屋の中をのぞくと、布団にくるまって静かな寝息を立てている。昨夜はうるさくて眠れずに、静かになった朝方寝入ったのだろう。
三郎は起こさないようにそっと小屋を後にした。
山道を下りながら、木々の隙間から見える狭い空を見上げた。青空は見えなかった。晴れているのにどんよりと灰色がかっている不気味な空だ。
リスが忙しそうに木の枝の上を行き来しているのが見える。バサバサと鷹が飛び立った。
「なんやろう。山全体が落ち着かない雰囲気やな」
胸騒ぎがして、三郎は足を早めた。
家の近くまで来ると、話し声が聞こえた。それが太一だと気付いて、三郎は無意識に木の影に隠れた。
「まだそんなこと言ってんの? もう帰ってよ!」
志乃の怒鳴り声が聞こえた。
話し合いで仲直りできそうにない。三郎は苦笑して一歩踏み出した。
「おれは見たんだよ。三郎の背中には傷なんかなかった。まだ二ヶ月ちょっとだぜ。あんなひでえ傷がすっかり跡形もなく消えるなんでおかしいだろ」
正面から志乃の肩に手を置き、太一が続けた。
「傷の治りが早すぎると思ったんだ。あいつは普通の人間じゃねえ。ここにだって何の目的で居座ってんだかわかったもんじゃねえ。早く追い出した方がいい」
「……」
普通の人間じゃないという言葉が、三郎の胸に刺さった。
怒りは沸いてこなかった。自分でもわかっている。
「だったらどうだって言うの? 三郎が何か私たちを傷つけるようなことをした? 逆でしょう? いつだって役に立ってくれているじゃない」
「そんなん、これからもそうだって保証はねえだんべ。あいつはおっかしいんだよ。雁ケ沢から飛び降りて平気だなんて、普通の人間じゃありえねえ」
「太一、あんたの家には世話になったけど、あんたとは縁を切ったから、もうここには来ないでって言ったでしょう」
二人の言い合いは平行線だった。
三郎を追い出すよう説得したい太一と、聞き耳を持たない志乃。数日前からの二人のケンカの原因が自分にあったことを知り、三郎の心が冷えた。申し訳ない気持ちと同時に、そのことを知らずにいた自分に対してふつふつと笑いがこみ上げてくる。
背中のケガはすっかり治っている。普通でない身体だとわかったうえで、志乃は一緒に暮らさないかと提案してくれたのか。
「だけど、志乃……」
「もういい加減にして、太一。私は三郎と……」
背中を向けている太一の向こうにいる志乃と目があった。気まずいところを見られたという風に志乃が目をそらす。
その時だった。
鳥が一斉に飛び立った。
大地が今まで感じたことがないくらい大きく揺れた。遠くから地鳴りが聞こえる。ごおごおと地響きがなり、耳を塞いでしゃがみこむ志乃を、太一が咄嗟にかばう。
普通の地震じゃない。
浅間がはねたと三郎は悟った。
シンと静まり返った静寂の後、今度は後ろから大きな音が聞こえた。さっきよりは規模は小さいが、ずっと近い場所だ。
「爺さん!」
三郎は駆け出した。音は炭焼き小屋の方から聞こえた。
「三郎!」
志乃の声が追いかけてきたが、三郎は振り返らなかった。
◆
「爺さん! 爺さん!」
三郎が炭焼き小屋に駆け付けると、そこに小屋らしきものはなかった。さっきの激しい揺れで岩山が崩れ、小屋を直撃している。
「爺さん! 大丈夫か?」
三郎は、人の身体の倍以上ある岩を持ち上げた。土間らしき場所から、土に汚れた源三の草履が見えた。大岩を脇にどかし、源三が寝ていた辺りの岩をつかむ。辺りの土が崩れるのを気にしながら、腕に力を入れた。鳥頭神社の力石の十倍はありそうな岩を持ち上げると、土の下に源三が寝ていた古びた布団が見えた。
「爺さん! 返事をしいや」
岩を投げ捨て、小屋の残がいと土をどかす。布団をはがすと、思ったよりきれいな源三の顔が見えた。即死だったのか、眠るような顔をしていた。
岩が直撃したらしく、布団は真っ赤に染まっていて、腹から下は見ることもできなかった。腕がちぎれて少し離れたところにあった。
「爺さん……」
昨夜、志乃のところで寝ろと三郎に言った源三は、こうなることを予感していたのだろうか。
『おれは、この年だ。いつ死んだって後悔はねえ。……いざって時は、志乃を守ってやってくれ』
「すまん、爺さん。わしは、志乃さんを守ってやれん」
源三の手のひらに語りかける。
「やれることは、ただひとつや」
引きちぎられた皺だらけの腕に触れると、まだほんのりと暖かった。
「み、み、見たか、志乃。あんなにでっけえ岩を持ち上げたぞ。やっぱりこいつは、人間じゃねえ」
いつから見ていたのだろうか。震えを隠しきれない太一の声が聞こえた。
「こいつが来てから、おかしなことばかりだ。こんなに地震が続くのも、浅間が怒っているのもこいつがここに来てからだ! 天狗の仕業だって、みんな言っているぞ」
「……」
振り返ると、太一と志乃が少し離れたところに立っている。太一の瞳には畏怖の感情が広がる。ぶるぶると震えた手で、腰に結わえていたナタをとった。
「すべてこいつの仕業に違いねえ! バケモノめ! 源三爺さんに何をした?」
志乃の目に恐怖はなかった。ただ、大岩に押しつぶされた炭焼き小屋の残がいを、信じられないという表情で見つめている。
志乃をかばうように立つ太一が、両手でナタを三郎の方に向ける。その刃先が恐怖に震えている。
「……」
三郎の口元にかすかな笑みが浮かんだ。
こんなにも震えているのに。三郎をバケモノだと信じているのに。ナタ一本で志乃をかばって戦おうとする。
地震や噴火、様々な自然災害がすべて自分の思い通りにできるような力があったら、どんなにいいか。そんな力もなく、ただ人が死んでいくのを見るしかない自分の力のなさが、本当に嫌になるのに。
「……すまんな、爺さん。わしが志乃さんにしてやれることは、これだけや」
源三に詫びた三郎は、その引きちぎられた手を口にくわえて立ち上がった。
「ひっ!」
太一が声にならない悲鳴を上げて一歩後づさった。志乃の目が大きく見開く。
「爺さんは、わしが食ってやった。久しぶりに人間を食ったら、爺さんでもうまかったで……」
腕を土の上に落とし、三郎は言った。
「鬼め! よ、よ、よくも、源三爺さんを!」
恐怖に震えながらも逃げ出そうともせず、太一がナタをかまえ続ける。
ほら、よく見ときいや。惚れた女の前で逃げ出さずに、バケモノに立ち向かう男の姿を。
三郎は胸の中で志乃にそう語りかけ、にやりと笑った。
「そうや。わしは鬼や。おまえに正体を見破られなかったら、そっちの女も食おうと思うとったのに……。若い女の方が、ジジイよりもうまそうやからな」
三郎はそう言って、ゆっくりとふたりに歩み寄った。
「三郎……」
志乃が信じられないという表情でつぶやいた。
太一の顔が恐怖にゆがむ。それでも、まだ逃げ出さずに志乃をかばおうとする。
「鬼め! 覚悟!」
恐怖に耐えかねなくなった太一が、ナタを振り回して三郎に斬りかかる。おそらく人を気付つけたことなどない若者の渾身の一撃を三郎はわざとよけずに受け止めた。
刃先は脇腹をかすめ、さらしと肉を切り裂き血しぶきが散った。鋭い痛みが走り、思わず顔をしかめる。
「三郎!」
志乃が真っ青な顔をして叫んだ。こんな状況になってもまだ、三郎を心配してくれるのかと、切ない気持ちが沸いてくる。
三郎は上半身着物を脱ぎ、さらしを引きちぎった。志乃に背中を向けた後、手に取ったさらしで脇腹の傷を拭く。太一のナタは、かすっただけだった。鋭い痛みはすぐに消えた。ぬぐったさらしを捨てると、そこにはうっすらと赤い傷が残るだけだった。
志乃の目に、その時初めて畏怖の感情が芽生えた。
それでいいんや。わしのことを畏れ、そして、忘れろ。
心の中でそうつぶやいて、三郎が志乃に向かって歩み寄った。
「や、やめろ。来るな」
初めて人を傷つけた一撃の後、腰を抜かした太一がそれでも志乃を守ろうと、尻を土につけたまま三郎と志乃の間に入ろうとする。
そうや。それでいい。この男がどんなにあんたぁのことを想うているんか、よく見ときや。それで、ちゃんと選んだらいい。どういう風に生きていくか、自分の歩む道を。
ごごごごごと、さっきとは違う音が聞こえた。音が近付いて、大きくなる。大蛇が地を這いながらすべてをなぎ倒すような音……。
「……!」
恐怖に怯える志乃の背後に、三郎は信じられない光景を見た。
いつもは清らかな小川に、濁った真っ黒な水が流れて来る。驚いたのはその水が、すさまじい勢いで下流から上流へと遡ってきたことだ。
細い小川に沿って、跡形もなく黒い泥流に飲まれていく。それは、志乃のすぐ後ろに迫っていた。
「……!」
咄嗟に身体が動いていた。恐怖に目をつぶるふたりの身体を抱きかかえ、空を飛んだ。背中に黒い翼が生え、上空から木の上まで飛ぶ。源三の遺体の埋まったままの小屋が泥流に飲み込まれているのが見えた。
何が起こったのかと川下をのぞくと、いつもは深い谷になっている吾妻川が、真っ黒な水であふれ周りの村を飲み込んでいた。
三郎はふたりを高台に降ろした。同時に背中の黒い羽根が見えなくなる。
「三郎……」
どこまで目を開けて見ていたのだろうか。走り去ろうとする三郎の腕を志乃がつかんだ。
「……」
その温かな腕を振り払い、志乃の身体を突き飛ばした。太一がそれを受け止める。
「大事なら、ちゃんと守りいや」
そう言い捨てて山を駆けおりた。
「三郎!」
志乃の声が追いかけてきたが、振り向くことはなかった。見えなくなったところで、再び空を飛ぶ。
太一の家も畑も跡形もなくなっていた。黒い泥流が生き物のように、吾妻川をあふれ出し、村を襲う。
「あの子は……? 日菜はどうしたんや……」
つぶやく声が震えていた。
泥と砂が交じり合った黒い水に、時折赤く燃えている岩が混ざる。浅間の噴火の溶岩だろう。溶岩が吾妻川をせき止め、たまった水があふれて一気に下流の村を襲ったのに違いない。吾妻川は途中渓谷で細くなっている部分がある。何度もせき止められ、あふれ出し、巨大な波が何層にもなって村々を襲いながら流れて行く。
壊された建物が屋根ごとゆっくり流れているのが見える。ヒヒンと馬がいななきながら流され、次第に見えなくなる。
矢倉村まで行く途中で、人が群がっていた。細谷の地蔵尊だ。石段のほとんどが泥水につかり、高台にある地蔵尊のすぐ近くまで押し寄せる。その中に、信次郎の姿が見えた。
信次郎は無事だったか。
三郎はほっとしながら、山の中に降り立った。着物をはおり直し、信次郎の元に走る。信次郎なら、日菜のことを知っているかもしれないと思ったのだ。
「信次郎どの」
声をかけると、息をきらした信次郎はその場に座り込んだ。
「無事だったか……」
「信次郎どのこそ。横谷村の川沿いの畑にいたら危なかった。無事でよかった。それで……」
「日菜さんは……? 日菜さんは無事か?」
「……え?」
聞きたかったことを逆に問われて、三郎の思考が固まった。
「日菜さんが、いないのか?」
どうして自分に聞くのかと聞く前にそう口にした。
口にしたら体中の毛穴からぶわっと汗が噴き出した。あの子がいないのか。
「矢倉村の家に行ったら、こっちに向かったって聞いたんだ。……あんたに会いに行ったのかと思って……」
「わしに……?」
意味がわからず問い返した。
「会ってないのか?」
信次郎に問われ、三郎はうなずいた。
「……探そう」
生きていることに望みをかけて、三郎は言った。
「……」
息を整えた信次郎が立ち上がる。
「おかっあ。おっかあ」
石段からは続々と村人が登ってくる。その中を十歳に満たない男の子が泣いていた。見ると、膝から血がにじんでいる。
「ボウズ。おっかあとはぐれたか」
三郎がしゃがみこんで声をかけた。
「家にいた。家ごと川に……。川に……」
「そうか……」
頭に手を置いて、三郎はそう言うしかなかった。あちこちで泣く子どもや、子どもの名前を叫ぶ親の姿……。
「信次郎どの。山から回って志乃さんの家まで行けるか」
「ああ、たぶんわかる」
「志乃さんに言えば、薬が手に入ると思うんだ。こんな時だ。使わせてくれるだろう。日菜さんもそこに向かっていたなら、会えるかもしれんし」
三郎がそう言うと、信次郎がこくりとうなずく。
「わしは、矢倉村まで探してくる。夕方ここでまた会おう」
「わかった」
川に流された道を避け、山の中の藪をかき分けるようにして、二人は別れた。
三郎は上空から日菜の姿を探したが見つからなかった。
吾妻川の沿岸は地獄絵図のようだった。矢倉村の周辺も三分の一は押し流されている。呆然と立ち尽くす年老いた男。子どもの名を必死で呼ぶ母親。
牛岩の付近まで来たが、黒い水に覆われ岩の姿は見えなかった。高台にある鬼岩と呼ばれる奇岩の上で泣いている男の子がいた。
泥流にのまれそうになり、必死で岩によじ登ったのだろう。けれど、上ったはいいが、下はごうごうと音を立てて流れる濁流で、下りるに下りられない。
「大丈夫か。助けに来たで」
後ろから声をかけると、男の子が驚いた顔をして振り返った。
「よくがんばったな。えらいで」
三郎がそう言うと、よほど怖かったのかしっかりと三郎にしがみついた。こんな小さな腕にこんなにも力があるのかと思うほどの力だった。
「ああ、あの時のボウズもそうやったなあ」
数十年前に牛石に必死でしがみついた少年を助けた時も、濁流の中こんな風に必死で三郎にしがみついてきた。若き日の源三の顔は思い出せなかったが、あの時の生きるという選択肢を必死でつかみ取った腕の力を、三郎は懐かしく思い出していた。
「すぐ降ろしてやる。目つぶってな」
耳元でそうささやくと、男の子がこくりとうなずく。そのまま三郎は翼を広げ、鳥頭神社の裏山まで飛んで男の子を下ろした。
鳥頭神社には日本武尊のお手植えと言われる由緒ある神代杉がある。その周りが炎に包まれていた。消火にあたっている人もいる。
「あそこが神代杉や。見えるか」
男の子を地面に下ろし、そう問いかけると、男の子はこくりとうなずいた。
「場所はわかるな。あっちに行けば人がおるから、落ち着いたら行ってみればええ」
「お兄ちゃんは?」
心細そうに男の子が言った。泣き声以外の声を初めて聞いた。
「他の人を助けに行く。ひとりでも平気やな」
視線を合わせ、頭をなでると、男の子は唇をかみ再び力強くうなずいた。
それから、三郎は夕方まで多くの人を救った。梁につかまった状態で流されている者を岸まで運び、木の上で助けを呼ぶものを救う。その間ずっと日菜の姿を探していた。日菜を見つける前に、助けを求める人に出会う。何人救っても、どんだけ探しても、日菜の姿は見つからなかった。
悪夢のような一日も日が傾き、夕方地蔵尊に戻る。信次郎が見つけてくれればいい。信次郎が日菜を助けて、日菜が信次郎を見直してくれるといい。
その願いは叶わなかった。
真っ黒になって疲れ切った顔の信次郎も、同じことを考えていたのだろう。ひとりで現れた三郎を見て、その場で膝をついた。
「もう駄目なんだ。きっと、日菜さんは流されたんだ」
そう言って嗚咽する信次郎を、三郎はどこか冷めた目で見つめた。
こんな風に泣くことができないのはなぜだろう。あの子を助けることができなかったのに。
三郎はこぶしを握りしめた。
「泣いてどないすんのや。日菜さんを助けられなかった。それで、あんたぁのやることは終わりか?」
「……?」
「今、助けんといかん人がたくさんおるやろう。それを見捨てんのか?」
「……だって、どうすれば……」
信次郎が涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を上げた。
「家を流された者がたくさんおる。夏だからひとまず凍え死ぬことはないやろうけど、明日からは食い物に困るはずや。それから水、薬……、あとは木材か。必要なところに届けなきゃあかんやろ」
「……そんなん、どうやって……」
信次郎の胸ぐらを掴んで、三郎は言った。
「あんたぁ、加部安の息子やろう。蔵に眠っている米俵、すぐに出せるよう、義父上を説得せえ。明日の朝までにどこでどんだけ必要か調べておく」
「そんなこと、できんのか?」
「できるかどうかやない。やるんや」
信次郎を立たせて、三郎は言い切った。
境内にはかがり火が焚かれだした。水に濡れた者もいるし、ケガをしたものもいる。暖を取るにも、灯りとしても、人が集まっているところではあちこちで焚かれるはずだ。
空からその灯りを頼りに、どこにどのくらいの人が集まっているかおおよその検討はつく。
「わかった。……説得しておくよ」
信次郎の目に生気が戻り、力強くうなずいた。
第7話 濁流