続編「天明の選択」

第8話 輪廻


翌日の早朝、三郎が大戸の加部安の屋敷の門まで来ると、多くの男たちが荷車に米俵を積んでいた。男たちの中に信次郎がいた。昨日の薄汚れた姿ではなく、新しい着物に着替え、こざっぱりとした姿で指示を出している。

跡取りの風格を感じ、三郎は鼻の奥がつんとなった。

「信次郎どの」

三郎が呼びかけると、振り返った信次郎の後ろにいた男と目が合った。八代目の光重だ。

「吾妻川沿いはひどい有様やけど、一番ひどいのは鎌原村や。村が全部溶岩に飲み込まれて、観音堂に逃げた者たちだけが生き残っとる。百人はおらんと思うけど、三日で食い物がなくなって、今のままだと餓死するで」

「鎌原村か……。遠いな」

信次郎がつぶやいた。

「鎌原は、浅間から近い。吾妻川に溶岩が流れたとしたら、方向的にも全滅はありうるが……」

光重があごに手を当てて、考え込む仕草をした。

「わしに荷車を貸してもらえば、二日後には必ず届ける」

「頼めるか。ひとりで大丈夫か」

「へえ。他の方は、手分けして、吾妻川沿いの村々を回ってください。大体の被害はここに……」

三郎は、村の名前と流された家の数を記した紙を見せた。

「わかった。こっちはなんとかしよう」

紙を受け取った信次郎が力強くうなずく。

「ちょっと、待て」

光重の低い声が信次郎を止めた。

「この者が、この米俵をどこかに持ち去らないという保証はあるまい」

「義父上」

光重の言葉に、信次郎が驚いた顔をする。その声に非難の色が混ざる。

「こういうご時世だ。よそで売ればいつもの倍の値がつくだろう」

「しかし、今は一刻の猶予もありません。多くの者を救うにはつべこべ言っている場合では……」

「信じたい気持ちはあるが、昨日の今日でここまでの情報を集めるには早すぎる。おまえ、どうやって調べたのだ」

「それは……」

三郎は言葉につまった。光重の言うのももっともだ。普通の人間であれば不可能だ。自分が天狗で、空を飛べる。だから、信じてくれと言って、誰が信じてくれるだろう。

「この者の言うことに、間違いはありません!」

信次郎が、そう言い切った。

「……」

「この者は信用に足る者です。この者の言うことにうそはありません。義父上、どうか。私を信じてください」

信次郎がそう言って頭を下げた。

「……信次郎がそこまで言うのであれば、賭けてみようじゃないか」

白髪の老人がそう言いながら歩み寄って来た。

「おじじ様」

加部安の名を上州一と知らしめた七代目重実だった。

「しかし……」

「三郎と言ったな。おまえに託せば多くの者の命を救えるのだな」

穏やかな物言いながら眼光鋭く見つめられ、三郎はおのずから姿勢を正した。

「はい。間違いなく二日で鎌原へ届けます」

「うちにそんなことができる者はおらん。なら、こやつに頼むしかあるまい」

「ありがとうございやす」

三郎はほっとして頭を下げる。

「礼はこちらが言うべきだ。どうか、多くの者を救ってやってください」

重実はゆっくりと頭を下げた。

途中まで手伝うと言って聞かない信次郎に荷台を押してもらい、大戸から須賀尾宿方面に向かった。

右側にへそ岩の奇岩が見えてくる。

へそ岩の写真

大きなへその姿をしているとこの名がついた岩は、三郎には人の目にしか見えない。

「もうこの辺でええで……」

三郎は後ろを押す信次郎に声をかけた。

「矢倉村や横谷村も助けてやってほしい。後のことは任せたで」

日菜の家も、太一の家も流された。志乃の家は大丈夫だったらしいが、三郎はもうそこに帰るわけにはいかない。信次郎に任せるしかなかった。

「ああ。鎌原の様子を教えてくれ。足りなければ、米ももっと用意するし、家を建てるなら材木も必要になってくるだろう」

「せやなあ。なるべく早く帰る……」

三郎と信次郎は少しの間見つめ合った。

「さっきは、助かった」

「え?」

「わしみたいな素性の知れん者を、信頼できると言ってくれたやろう」

信次郎がああ言ってくれなければ、重実だって三郎を信用しなかっただろう。

「義父上の言うことが正しいかもしれんって、疑わなかったんか。わしが、このまま米を持っていなくなる可能性だってあるやろう」

「それはねえよ」

三郎が照れ隠しでからかうと、信次郎はきっぱりと言った。

「その自信はどこからくるんや」

「日菜さんが言っていたんだ」

「……え?」

信次郎から、突然日菜の名前が出てきて三郎は言葉を失った。

「前に牛岩で子どもを助けたことがあるって。いつも助けてばかりいる人だって、牛岩が言っているって。立石でも誰かを助けたことがあるらしいから、一度話を聞いてみたかったって……」

「……」

「縁談は正式に断られたよ。この間立石に一緒に行って、確信したって。……日菜さんは、いつか誰かが会いに来てくれるような気がして、ずっと待っていたんだって。それが三郎だってわかったって。……だから、昨日あんたに会いに行ったんだ」

「……なんやて」

「なんだよ。泣くなよ。……ふられて、泣きてえのはこっちだってえのによ」

言われて初めて気が付いた。

三郎の両目から、涙がはらはらとこぼれ落ちた。泣いたのなんて、いつぶりだろうか。もう泣くほど心が動揺するような出来事は起きまいと思っていたのに、後から後からこぼれ落ちる涙を止めることはできなかった。

そばにいたら助けることもできたのに。そばにいて仲良くなって、いつか別れる日がくるのがわかっている。その辛さに耐えられなくて、出会わないことを選んだ。

その結果がこれだ。

あの子はずっと三郎が会いに来るのを待っていたというのに。

信次郎と別れて荷車を引いた。へそ岩がにらみつけるように、三郎を見つめる。弱い心も、臆病な心も、迷う心もみんな見透かしているかのような瞳に見える。

天狗の姿になって空を飛べば、もっと楽に運べるかもしれない。けれど、人間の姿のまま、力の限り荷車を引く。

鎌原に着いて、加部安の名前で米俵を送り届け、休まずにまた大戸へ戻る。新しい荷を積み、再び体に鞭を打つ。

草鞋は擦り切れ、足に血豆ができた。それもすぐに治り、また新しい豆ができる。

油断するとあふれ出てくる涙を、三郎は身体を酷使することで耐えた。

どうしてこんなつらい思いをしながら生き続けなければならないか。咲との辛い別れの後、そうずっと思っていた。

その迷いの結果、日菜を見殺しにしてしまった。

あの子が、次に生まれ変わって来た時には、ずっと遠くから見守ろう。そして、危険が及んだ時には必ず駆け付けて助けよう。

その人が自分の意思のまま、その生をまっとうできるように。そして、願わくば、いい人とめぐり合って、子どもを産み育て、幸せに暮らせるように。

影からそっと見守ろう。

その日のためにできる限りのことをする。そういう道を三郎は選んだ。

太陽が西に沈む。赤く染まる夕焼けを目指して、三郎は荷車を引く手に力を込め、足を動かした。

数十年後の秋だった。山の木々が錦に色付き、柿や栗やアケビがなる実の秋。

剣の朝稽古をすませた三郎が、独呑の井に近づくと、水面が小さくさざめいた。意識に残る人の命がつきそうなことを知らせてくれている。

「ありがとうなあ。そうか……、もう二十年、いや三十年は経つのか」

慈悲深い岩に礼を言い、窪みにたまったひとり分の水をすくい、口に含む。

「ちょっくら山を下りてもええ頃やろう。行ってくるわ。またな」

独呑の井に別れを告げ、三郎は久しぶりに大場の山を下りた。

目的地に着く前にいくつか寄るところがあった。一つ目は川戸村の浅間神社だ。

大きな五輪塔がいくつか並ぶ。そのうちのひとつが富澤豊前守の慰霊塔だった。

五輪塔

「あんたぁは、自分で選んで仏さんになったんやなあ」

五輪塔に手を合わせ、三郎は言った。

「即身仏になるなんて、なかなかできることじゃないからなあ」

辛い道を自ら選んだ人として尊敬され、信仰の対象となった。敬意を表すために、今日ここまで来た。

「あの日、会えてよかったわ」

心からの言葉を伝え、五輪塔を後にする。

その後、原町の槻ノ木の脇を通り、にぎやかな町並みを散策しつつ、吾妻川の立石があった付近に立ち寄る。天明の噴火による濁流で、立石は流されてその姿を見ることはできなくなった。

「全くあの石は、日菜さんに何を言ったんだか……」

三郎がまだ血気盛んで、自らの剣の腕前を誇示したかった頃、岩櫃城主の吾妻太郎に仕えたことがあった。立石の上に立ったのはきっとその時の話だ。

余計なことを……、とひとり言を言い、三郎は吾妻川沿いを西に向かう。泥流に飲み込まれた村々は、すっかり復興しつつあった。所々に浅間石と呼ばれる大石が、その時の忘れ物のように残ってはいるが、人々が生きることを諦めない道を選んだことを誇らしく思う。

刈り取られた後の麻畑を見て、三郎は目を細めた。

目的とする家は、当時のままの姿をしてその場所にあった。めまいがするくらい懐かしいその風景に自然と足を早めた。

「こんにちは」

何と声をかけていいかわからず、間抜けなあいさつと一緒に家の中をのぞく。当時と同じ、土間と囲炉裏、その先に板間の部屋があるだけの質素な家に、布団が敷かれている。白髪の女性がほんの少し頭を上げた。

「三郎……?」

驚かれることもなく、すぐに返事があった。

「志乃さん、久しぶりやなあ。全然変わっとらんわ。相変わらずきれいや」

お世辞ではなかった。年をとって、黒髪は白髪になり、皺はいくらか増えたが、まっすぐに三郎を見つめる瞳は輝きを失っていなかった。やわらかく三郎を迎え入れるその笑顔も。

「そんなはずないでしょ、いやあね。あなたこそ、話し方ですぐにわかった。入って、もっと近くで顔を見せて」

あんな衝撃的な別れ方をしたというのに、何事もなかったかのように志乃は三郎を迎え入れた。

「ああ、三郎。本当に変わってないわね。会えてうれしいわ」

死期が迫っているとは思えないほど、志乃は穏やかに笑った。

「志乃さん、結局太一さんとは一緒にならんかったんやな」

「そうね。せっかくあなたが下手な演技をしてまで、太一とくっつけようとしたのにね……」

「バレていたか……」

正直に白状すると、志乃はふふふっと笑った。その歌うような笑い声が記憶の中に重なり、胸に染みる。

志乃のことは気になって、時々遠くから見ていた。太一とは一緒にならず、薬草を育てて生計を立てていたことは知っていた。

「まあ、どっちでもよかったんやけど、一人で生きていくのも、太一さんと一緒になるのも、ちゃんと志乃さんに決めてほしかったんや。わしのせいでケンカをして、そのせいでだめやったなんて太一さんに憎まれたら、夢見が悪いからなぁ」

「太一はないって、言ったでしょう」

志乃がそう言って目を笑う。

ふたりは本当に異父姉弟だのかもしれないと、三郎は思った。志乃だけがそれを知っていて、胸に秘めたまま死んでいこうとしているのか。

「一人でもちゃんとやっていけたわよ。信次郎さんがよくしてくれて、薬草を買ってくれたの」

「そうか。そりゃあ、よかった」

懐かしい名前を聞き、三郎の口元に笑みが浮かんだ。信次郎は、九代目の加部家の当主となったが、安左衛門の名前は継がず、加部十兵衛信安と名乗り、七代目、八代目の商いを引き継いだ。天明の浅間山の大噴火の後の善行は広く知れ渡り、加部安の名はますます盤石なものになった。

「志乃~。甘酒持って来たぞ。ちゃんと滋養をつけねえと……」

瓢箪を手にした老人が家に入って来る。

「……」

三郎の存在に気付くと、ぽかりと口を開けた。

「さ、さ、三郎……?」

「太一さん、久しぶりやなあ」

「おめえ、本当に三郎か。おったまげたなあ」

目を見開いて、太一が三郎の顔をまじまじと見つめる。

「ほら、太一。そんなにじろじろ見ないの。失礼でしょう?」

子どもに言いきかすような志乃の物言いに、三郎は吹き出した。ふたりの関係はあの頃のまま変わってない。

「それよか、志乃、大丈夫か。倒れたって聞いて、ぶったまげたぞ。これならのどを通るだろう。ほら、注いでやるからちゃんと飲めよ」

太一が心配そうに志乃の顔をのぞき込む。

「はいはい。わかったわよ」

志乃はおっくうそうな声で返事をし、身体を起こした。太一が瓢箪から湯呑みに注いだ白い液体を、志乃の口にほんの少し含む。

三郎はいつだったか乾ききった身体に染みわたった、甘酒の滑らかな味を思い出した。三郎の身体を潤したように、志乃の身体のすみずみまで届くといいと願わずにはいられなかった。

けれど、一口飲んだだけで、志乃は首を横に振る。そのまま再び青白い顔で横になった。

太一が泣きそうな顔で、湯呑みを床に置いた。トンと乾いた音が響く。

「太一さんは結婚したんか?」

三郎が声をかけると、太一は目尻に皺を寄せて三郎をにらんだ。

「してねえよ。家は弟が継いだから、別に問題ねえだんべ」

「兄弟でね、麻の復興に頑張ったのよ。太一の家の麻は評判なの」

「そっか」

志乃の言葉に、三郎はうなずいた。

太一もそういう生き方を選んだのだ。ひとりで生きていく志乃の側に寄り添う人生を。

天明のあの日、太一の畑も濁流に飲み込まれた。そこから必死で立て直して生きてきた強い生き方。その側に、ひとりで力強く生きる志乃の存在もまた必要だったのだろう。

「おばあちゃん。薬草摘んで来たよ」

十歳くらいの娘が、薬草が入ったざるを持って顔を出す。

「お客さま?」

「ハナ、おばあちゃんの昔のお友だちよ」

「お友だち」

娘が三郎の顔を見て、不思議そうな顔をする。

「あの後、親を亡くした子どもを、何人か引き取ったの。薬草を育てるのに、手伝ってくれて、助かっているの」

「そうかぁ。にぎやかに、暮らしとったんやな」

「ええ。三郎はどうしてたの?」

「やることが見つかって修行中や」

「修行?」

「ああ、大工の棟梁のところで大工の修行をしたり、料理人のところで料理の修行をしたりしとる」

十年ごとに三郎は里に出ることにしている。今度あの子がどの時代の誰に生まれ変わってもいいように、村々の様子を見聞きし、様々な職人の技を身につける。山にこもる時にも、剣の稽古を欠かさない。目標ができると、生きていくことがおっくうではなくなった。

「そう。……よかった」

志乃は幸せそうにほほ笑んで、目を閉じた。

「ねえ、三郎」

「うん?」

「私が、いつか、生まれ変わったら、……会いに来てくれる?」

目を閉じたまま、志乃はそう言った。

太一が土間に胡坐をかいて、鼻をすすっている。別れの時が近付いてきているのだ。

「ああ、ええよ」

「約束よ。その時は、またご馳走してあげるから……」

ゆっくり動いていた志乃の唇が止まった。

「おばあちゃん?」

「ハナちゃん。おっかさんを呼んで来てくれ」

太一がハナにそう言いきかせた。こくりとうなずき、少女が走って出て行く。

「ああ、約束する。ほな、またな」

三郎はそう言って家を出た。最期の別れはふたりにしてやろうと思ったのだ。

戸口の外に出ると、太一の嗚咽が聞こえた。

「志乃さんは、世話焼きなところは変わらんなあ」

志乃もまた別の時代に生まれ変わるだろう。そして、三郎と出会ったら世話を焼きたがるに違いない。

今度はどんな修行をさせてもらおうか。生まれ変わった彼女たちが自分で道を選んで進めるよう、そして幸せに暮らせるよう、自分のできることはなんだろう。

「楽しみが、またひとつ増えたわ」

真っ赤な椛の葉が、はらりと足元に舞い落ちる。三郎はつぶやいて、次の町を目指して歩き出した。

「ねえ。こんなのあったっけ?」

群馬原町駅のすぐそばに、涼くんのお父さん・ヒロさんがお勤めする商工会がある。ヒロさんの忘れ物を届けた後、駅に戻る途中で私は足を止めた。

「どうしたの? 妃芽ちゃん」

前を歩く涼くんが振り向く。真新しい学生服に身を包んだ涼くんは、春から高校生になったばかりだ。

「これ、前からあったっけ?」

「ああ。五輪塔だろ。川戸の方から持って来たんだってさ。ほら、自動車専用道路ができるだろう。道路がお墓にあたって、粉砕処分されるしかなくて、ここの館長が引き取ったって、お父さんから聞いたよ」

「ふうん」

涼くんの説明を聞いて、私はじっとその五輪塔を眺めた。四角の台座の上につるんとした丸い石、その上に屋根のような形とさらに丸い石がふたつ積まれている。

隣には大きな六文銭の赤い旗。群馬原町駅徒歩三十秒の好立地にある忍者ミュージアム通称『にんぱく』の脇に突然その五輪塔は現れた。

にんぱく前五輪塔

「……そうなんだ。でも、誰のお墓なの?」

「確か、富澤豊前守って言っていたかな。真田昌幸に仕えた人で、吾妻七騎にも名前のあるこの辺りの地侍。吾妻七騎の中には、忍者だって言われている人もいるから、この人も忍者かもな」

「なるほど、それでここに……」

その五輪塔は、静かにそこに佇んでいる。そこにいるのが、最初から当たり前のように。

四百年前の忍者を祀ったその慰霊塔にそっと手を合わせて目をつぶると、すぐ横に三郎の気配を感じた。亡き人を敬い、手を合わせたたくさんの人の中に三郎がいた。

目を開けると、そこにはただつるんとした丸い岩が目の前にあるだけだった。

どの時代かわからないけど、三郎がこの五輪塔に向けて手を合わせた。そのことを教えてくれた。

「妃芽ちゃん。電車来るよ」

駅の方から涼くんの声が聞こえる。

「うん。わかった」

私は慌てて駆け出した。

旅をしている三郎は、今どこにいるのかわからない。SNSに岩の写真を送ってくるだけだ。

それでも、この町のあちこちで三郎の気配を感じることがあるから、私は寂しくはなかった。

「さっきの五輪塔の人なんだけどさ……」

「うん」

カンカンカンカン……と、踏切の音か聞こえる。群馬原町駅のホームで電車を待ちながら、涼くんが続けた。

「即身仏って言って、生きながらお墓に入って仏になった人なんだって」

「ええ? そんな人がいるの?」

「吾妻郡内にはいくつか例があるみたいだよ」

「ふうん。すごいね」

ゆっくりとホームに電車がすべり込んでくる。

頭の中はさっきの五輪塔に祀られた忍者らしい人のことを考えていた。生きながら仏になった人の供養塔に手を合わせながら、三郎は何を考えていたのだろう。

今度会ったら聞いてみようと思いつき、そう思えることがとても幸せな気がして、私は少し前向きな気持ちで電車に乗り込んだ。

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第8話 輪廻

続編 終