番外編「茜色の空に」

第2話  呪縛


日が西に傾き始める頃になっても、少女の行方はわからなかった。

『村中を探したっていうのに、一体どこへ消えたんだ』

走り回りくたくたになった亮太郎は、竹筒の水を飲みほした。村の男たちが探し回っても手掛かりさえつかめない。

『神隠しにでもあったとしか思えねえ。それか、もう家に帰ってんじゃねえか』

願いも込めて、亮太郎はついそう口にした。

『神隠し? そうか……』

咲がはっとした顔をして立ち止まった。

『もしかしたら、あそこかもしれない』

『え? あそこって?』

『盗賊や人さらいが、今一番安心できる場所だ』

走り出した咲は、そう言って今来た道を戻る。

『は? なんの謎かけだよ』

『私が、誰も近付くなと言った場所だからな』

咲は結った髪を揺らしながら走って行く。

『安楽寺か。……でも、この間は不審な点はなかったと聞いたぞ』

あの日、伊能代官に派遣された家来数人が安楽寺を検めに行った。

寺には人はおらず、声がしたという庫裏にも人のいる気配はなかった。シンと静まり返った寺を気味悪がって、家来たちは早々と引き上げてしまったらしいけれど。

『隣村で女の子がいなくなったといううわさを聞いたのは十日ほど前、人魂が目撃されたのはその直後だ。一度成功したとしたら、そろそろ動き出してもおかしくない』

『……』

女の泣き声と男の声。人魂に気をとられていたが、人さらいが隠れていたとしたら。

亮太郎はごくりとつばを飲み込んだ。

『亮太郎は、屋敷に戻って父に知らせてくれんか。ちょっと確かめに行ってくる』

街道に出る手前で、咲は足を止めずに言った。安楽寺に行くには右、屋敷に戻るのは左に折れる。

『あのなぁ……』

亮太郎は、心底呆れた声を出して続けた。

『女ひとりで出歩くなとお触れを出したのはおまえの父上ではなかったか?』

『誰が出したかなど知らん』

『これから盗賊と対面するかもしれんのに、ひとりで行くなど、何を考えているんだ』

そう口走ってから、胸に不吉な感情がわき上がる。急にのどが渇いて、小走りから歩みになった。

『どうかしたか?』

咲が不審そうな顔をして振り返る。束ねたままの黒髪が揺れた。

『あ、いや……』

何か、大切なことを忘れているような気がする。

その時に気が付いた。この間通ったあぜ道と田んぼの一部が荒れている。複数の人間が踏み荒らしたような跡。あんなのはこの前はなかった。

動悸がする。それを見つけてぞわっと背中を悪寒がかけぬけた。手のひらに汗がにじむ。

踏み荒らされた草の上に、真新しい桃色の玉かんざしが落ちていた。

『どうした?』

『……』

玉かんざしを拾い上げた亮太郎は、それを咲に見せる。

『……奈津さんのだ』

苦いものを吐き出すように口にした言葉がかすれた。

『え?』

咲の顔がくもる。

胸が早鐘のように響いていた。母に奈津を送るように言われたのに、咲と急いで行かなくてはいけなくなって、家の者に送らせようとして……。それから、どうしたのだっけ……。

『ひとりで来たのだから、ひとりで帰れます』

すねたようにそう言って背を向けた奈津。その背中に亮太郎はどこかほっとしていた。

あれだけ女子ひとりで出かけるなと言っていたのに……。自分は何をやっているのだ。

『奈津さんの家は、安楽寺の先だ』

亮太郎の声がかすれた。

『急ごう』

咲はこくりとうなずいた。

鬱蒼とした林の中にその寺は静かに佇んでいた。本堂と講堂、その奥に小さな庫裏がある。庫裏の向こうに裏門があり、供養塔が並ぶ墓地があるはずだ。

この間人魂を見たという老人は、山手の裏門の方から見たのだろう。

ふたりは、正面の山門の手前からそっと様子をうかがった。

既に辺りはうす暗くなりつつある。人気はない寺は気味が悪く、昼間でも近寄りたくなかった。

『……誰もいなそうだな』

『いるとすれば、声がしたという庫裏の方だろう』

怖がる風もなく、咲は山門をくぐり本堂をのぞく。

『うん。ここは問題なさそうだ』

本堂の入口には鍵がかかっているようで、咲がガタガタと戸を揺らしてもびくともしないのを確認すると、段差を飛び降りた。

『……おまえは、本当に怖いものなしだな』

亮太郎は内心ひやひやしながらも、呆れた声でつぶやいた。気配を消し、足音を立てずに小走りに進む咲の後をついて行く。

『怖いものはあるさ。……でも、怨霊のたぐいは怖くない。怖いのは……』

主がいなくなって雑草の生えた境内を進みながら、咲がつぶやいた。

『ほら』

草の中から咲が見つけたのは、黒く焦げた苔玉だった。岩櫃山で沼田からの使者を驚かせるために作ったものによく似ていた。

誰かが、わざわざこんな細工をしてまで、ここに人を近付けさせない理由があるのだ。

『私が行く』

咲が低い声でそう言った。

『でも……』

『女の方が相手は油断する。亮太郎の援護があると思えば、安心して行ける』

触れるほど近い位置にある咲の目がまっすぐに亮太郎に向けられた。

『……わかった』

亮太郎はため息交じりにうなずいた。咲は本当に亮太郎の動かし方がよくわかっている。

咲が庫裏に向かって歩く。先ほどまでの気配を消した歩き方ではない。わざと足音を立てたり、小枝を足で踏んで割ったりして、存在をわからせる歩き方で。

もし人が隠れているようであれば、その者たちの視線は咲に注がれているだろう。亮太郎は気配を消したまま、木の影に隠れながら少しずつ移動して近付いた。

『キク~。いるの?』

咲がいつもよりも声を高くして呼びかけた。

庫裏の影に男の姿があった。膝までの色褪せた着物に、月代の伸びた髪。侍には見えない男がひとり、物影から近付いてくる若い女をなめるように見つめていた。亮太郎のいる場所からは姿は見えないが仲間がいるのだろう。視線は咲の方に向けたまま、顔を傾け何かを言った。下卑た表情でにやりと笑う。

怒りにも似た感情がわき上がってくるのに、亮太郎の頭は冴えている。咲に援護を期待されていると思うと、しくじるわけにはいかない。感情的にならずに、冷静に動くしかない。

女ひとりだけと油断しているのか、男たちの気配が漏れる。物影にふたり、少し離れた木の影にひとり、全部で三人か。

男たちの視線が咲に注がれるのを確認すると、亮太郎は木の影に隠れながら、そっと庫裏の裏に回った。

『お嬢さん、誰か探しているのかい?』

咲が近づくと、男たちは庫から出てきて言った。

『妹がいなくなって……。十歳くらいの女の子なんです。ご存知ないですか?』

『女の子? 知らねえなあ』

大げさな口調で男が言った。隣にいた男がにやにやと笑いながら、咲の身体に視線を走らせる。

『お嬢さん、いくら妹が心配でも、女ひとりでこんな場所に探しにくるなんて感心しねえなあ』

『そうだぜ。ここは怖い場所だから、近づくなって聞いたことねえかい』

男たちがぎらぎらした目で、一歩咲に近づいた。

『知らなければいいです』

怯えたような口調で、咲が一歩後ずさる。

この辺りの土地の者ではないのだろう。亮太郎から見れば明らかに演技とわかる咲の怯えを、本気に受け取った男たちがにやにやと笑いながら咲を遠巻きに囲んだ。

この辺りの村の者であれば、いくら若い女であっても、男のような袴をはいて、髪を結んだだけの姿を見れば天狗姫とうわさの娘だとわかるだろう。

容赦する必要はないと思い、亮太郎は腰の刀にそっと手をかけた。 

『今日は運がいいなあ。ガキだけじゃなくて、女も手に入るなんてなあ』

『ああ、こいつもよく見たら高く売れそうな器量よしじゃねえか』

下卑た笑みを浮かべながら、男たちは咲ににじり寄った。

こいつも……?

『……何のことですか?』

咲が不安そうな声でさらに演技を続ける。

『ああ、町ではなあ、あんたらみたいな見栄えのいい娘はいい金になるんだよ』

『あんたも、そんな男みたいな着物を着てないで、もうひとりの娘みたいに女らしい恰好してりゃあ、かわいがってもらえるぜ』

『他に? 私の他にも誰かいるの?』

調子にのってしゃべる男たちに、咲がたずねた。視線が庫裏の方に向かう。

亮太郎が縁側に回って様子をうかがうと、中から物音が聞こえる。

『ああ、町に連れて行くのにも銭がかかるからなあ。ひとりよりは大勢いた方がいいだろう。おまえもその方が不安じゃねえだろうしよ』

男にひとりがそう言って、咲の腕を取ろうとする。同時に、咲は腕を反対側にねじり、足をひっかけた。

『あ、いてえ』

『こいつ、何をしやがる』

地べたに転がされた男を見て、他の男たちが慌てて刀を抜く。咲が刀の柄に手をかけ、間合いを取った。

刀を手にしてはいるが、男たちは元々土地を耕していた者たちだろう。日照りや冷害による飢饉で年貢が払えず、土地を捨てざるを得なかった者だ。

剣の稽古をするわけでもなく、生きるために力で日銭を稼いでいるに違いない。そんな者たちを相手に、咲も亮太郎も剣の腕で負けるはずはなかった。

お互いに竹刀で戦うのであれば、負けはしない。けれど、亮太郎は剣で人を斬り合ったことなどなかった。おそらく、咲も……。

『うりゃあ~』

短い着物の裾をめくって、男が刀を頭上に振り上げ斬りかかる。動きがぬるい。女は怪我をさせずに生け捕った方がいい。そういう思いがあるのだろう。単なる脅しに見えた。

咲はゆるい剣筋を見極め、するどく剣を交わした。

キンと高い音を響かせ、折れた刀が二、三空を回って、土に刺さった。男の手には、先の半分折れた刀が残る。

『こ、こいつ……』

咲の腕前を察したのか、男たちが後ずさる。

コツンと庫裏の中から音がした。亮太郎が板の隙間からのぞくと、後ろ手に縛られている奈津が、太い釘と石を使って、少女の腕を縛っている縄を切ろうとしている。奈津は、口に猿ぐつわを嚙まされていた。

亮太郎の胸の中で何が弾けた。

『おのれ、おまえら……』

苦い何かがのどにせりあがってくる。それを吐き出すように思わず声が出ていた。

亮太郎は、庫裏の影から飛び出した。亮太郎を見た男たちの顔に緊張が走る。

『うりゃあああ』

ひとりの男が刀を振り上げた。

先ほどの男よりは腕も立ち、油断もない。鋭い刀筋を、それでも亮太郎は余裕を持って受け止めた。

残りの二人は咲の方に向かう。女を生け捕り、人質にするつもりなのだろう。

剣の腕前では負けるとは思えないが、咲の動きが気になり集中できなかった。咲は、二人を相手でも慌てている様子を見せなかった。顔色も変えずに、淡々と相手の繰り出す剣を受け止めている。

早く目の前の男を片付けて、咲の加勢に行かねばならない。

気持ちは焦るのに、思うように身体が動かなかった。得意の面を狙えば、一瞬で片が付くのに。

どこを狙えば、相手を殺さずに戦意を喪失させることができるのか。そんな迷いがどこかにあったのかもしれない。

咲も同じ気持ちがあったのだろう。勝負はなかなかつかず、肩で息をしている。

カタンと乾いた音が響いた。

『今のうちに逃げて』

猿ぐつわをあご先にずらした奈津が、少女にそう告げた。少女の縄は外れているが、腕を後ろに固定されたままの奈津の方を気にして、動こうとしない。

『早く逃げなさい』

息を荒くした奈津が叫んだ。

小さくうなずいて、少女が走り出した。

『このアマ~。逃がすか』

折れた刀を持った男が、少女を追いかけた。咲がそれを見て、素早く男に小手を決め、そのまま男を追った。

『あっ!』

男が少女の襟をつかむ。そのつかんだ腕を、咲が斬り落とした。ドサッと物と化した手が土の上に落ちる。

『うわ~! 痛てえ』

先のない腕を押さえて男が転げ回った。

『こっちへ』

真っ青な顔をして立ち尽くす少女を、咲が抱き抱える。

『な、何しやがるんだ!』

刀を持ってはいるが、本当に斬るとは思っていなかったのかもしれない。亮太郎と対峙していたカッとした声を上げた。その隙をついて、亮太郎は小手を狙う。

『うっ』

右手を斬られ、刀を落とした男の首元に、刀を突きつけた。

『動くな。動くと命はないぞ』

『……』

戦意を喪失した男に素早く縄をかけ縛りあげる。

『大丈夫か』

亮太郎が咲に声をかけると、真っ青な顔をした咲がコクリとうなずく。怯えた少女の頭を優しくなでながらも、視線は自分が斬り落とした腕に向けられている。

『自業自得だ。暴れるな。大人しくしていれば、医者に診させてやる』

亮太郎は、腕を押さえた男の身体を押さえ、腕に手拭いを巻く。言葉が耳に届いたのか、男は呻き声を上げながらも暴れなくなった。

亮太郎がほっと息を吐いた時だった。

『このアマ~!』

断末魔のような声を聞き、亮太郎が顔を上げると、最初に咲が相手をしていた男が、左手で咲に向かって斬りかかろうとする。一瞬のことだったが、亮太郎にはそれがゆっくりと感じた。

少女を抱きかかえたままの咲が、驚いた顔をして刀をよけた。そのまま、少女をかばって背を向けたところに、男の刀が襲う。顔をしかめた咲の肩口の着物が破れ、血がにじむ。

亮太郎の全身の血がかっと熱く沸き上がるような気がした。

『おのれ!』

さらに、咲に刀を振り上げた男に向かい亮太郎は斬りつけた。一瞬の迷いもなかった。肉を斬りさく、何とも言えない感触だけが腕に残る。

男の身体が米俵のような鈍い音を立てて転がった。

『大丈夫? 血が……』

少女のか細い声が聞こえて、亮太郎ははっとした。

『掠り傷だから、平気よ。怖いおじさんは、あのお兄ちゃんがやっつけてくれたからね。もう大丈夫、恐かったわね』

咲が優しく少女に話しかけると、少女はやっと恐かったことを思い出したかのように、泣き出した。

『ごめんね。すぐに助けてあげられなくて』

『ううん。あのお姉ちゃんがずっと大丈夫って言ってくれたから……』

そう言って咲の胸に顔を埋める少女の背中を、咲は優しくトントンとたたいた。

『……』

亮太郎は、庫裏の方に向き直った。

少し開いたままの格子戸の向こうにいる奈津と目が合う。

亮太郎は、ゆっくりと奈津の方に歩み寄り、後ろ手に縛られている縄をほどこうとする。今頃になって、手が震えてうまくほどくことができない。

刀で切ると、奈津の白く細い腕に、赤い縄の跡がついていて、亮太郎は思わず目をそらした。

『……悪かった』

詫びた声がかすれた。

『……』

『家まで送っていく』

『……でも、……』

『私は、この子をおばあさんに返してくる。奈津さんのことは、任せた』

奈津の戸惑いを感じたのが、咲がカラっとした声でそう言った。騒ぎを聞きつけた役人が応援に来ていた。男の骸と、縛られた男たちは任せても大丈夫そうだった。

『……送らせてくれ』

そう言って、亮太郎は奈津の細い手を取った。

奈津の一歩前をゆっくりと歩きながら、奈津の家まで向かった。その道中、奈津は青ざめた顔をして一言も発しなかった。亮太郎もどう声をかけていいかわからなかった。

門の前で、亮太郎は奈津に向き直った。

……あやまらなければならない。自分のいい加減さと不甲斐なさを。

『ありがとうございました』

けれど、先に口を開いたのは奈津だった。

『助けていただかなければ、今頃どうなっていたか。感謝いたします』

そう言って頭を下げた奈津は、ほつれた髪を気にするようにうなじに手をあて、目をふせた。

『あ、いや……。おれこそ……』

悪かったという前に、奈津が顔を上げる。

『でも、亮太郎さまは、なぜ私たちの居場所がわかったのですか』

『あ、ああ……』

奈津に問われ、亮太郎はふところにしまったかんざしを取り出した。

『寺に向かう道でこれが落ちていたんだ。奈津さんのだろう?』

『あ……』

一瞬髪に手を触れた奈津の瞳が揺れる。

『申し訳ありません。せっかく亮太郎さまがくださったのに、落としてしまって……』

『え?』

奈津の言葉に、自分でもまぬけな声を発した。

『……』

かんざしに手を伸ばしかけた奈津の動きが止まる。

『亮太郎さまがくださったのではなかったのですか?』

『……あ!』

亮太郎は数日前この場所で、奈津に渡した包みを思い出した。……母上だ。母上があの包みの中にかんざしを入れておいたのだ。あたかも、亮太郎が奈津のために用意したかのように。

『……!』

奈津の耳がかっと赤く染まった。どこかはかなげだった目尻がみるみる吊り上がる。

『あなたは、誰とも結婚しない方がいいわ。あなたのお嫁さんになった人は、絶対幸せになんてなれない』

手を引っ込め、奈津は胸にあてて続けた。

『あなただって、わかっているのでしょう。あの方のそばにいる限り、あなたは他の誰かと幸せになどなれはしない』

『……』

その言葉は、呪いのように亮太郎の胸に響いた。

口の中に苦々しいものがせりあがってくる。だまして奈津をその気にさせようとした母を苦々しく感じているのではなかった。そんなことをさせてしまう親不孝と、それに振り回されて傷つけた気位の高い女性への申し訳なさとが混ざり合う。

『あなたを怖い目に合せてしまい、本当にすまなかった』

亮太郎は頭を深く下げた。だけど、謝るのはそれだけだ。それ以上は、亮太郎にもどうもできない領域だった。

『今日は疲れたでしょうから、ゆっくり休んでください。明日役人が事情を聞きに来るでしょう。その時は協力願います』

労りの言葉のようで、それでいて、事務的な物言いになってしまった。

亮太郎はそれ以上何も言えなかった。

『では……』

奈津の顔を見ることなく背を向けた。速足で街道に出るまでの間、亮太郎は一度も振り返ることはなかった。

奈津はどんな表情をしていたのだろうか。気の強い人だから、思い切り亮太郎をにらんでいればいいと願う。バカな親子に振り回されたと、憤慨してくれればいい。

『あなたは、誰とも結婚しない方がいいわ。あなたのお嫁さんになった人は、絶対幸せになんてなれない』

言われなくともわかっていた。

奈津が縛られて捕らえられていたのを見た時、亮太郎は確かにかっとなった。けれど、咲を傷つけられた時に感じたものとは比べものにならない。初めて人を斬るのに、なんの躊躇もないくらいに。

西の空は茜色から漆黒の闇に変わりつつあった。初めて人を斬った日、家路を急ぎながら見上げた西の空は、恐ろしいくらい美しい色彩を見せていた。

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第2話 呪縛